りぷらすのブログ

介護領域の社会的課題の解決を目指す

地域とともに“ある”とは ー理学療法士・松井遥さんに聞く

本日は、昨年6月からりぷらすで働かれている理学療法士の松井遥さんにお話を伺いました。

神奈川から熱い想いを持って石巻に来られた松井さんの素顔や地域リハビリテーションに関する取り組み、働く中での新たな発見や変化に関する話から “リハ職の地域でのあり方”のヒントを探ります。

【インタビュアー_河村由実子】

f:id:replus:20210730100522p:plain

 

コロナ禍における住民主体の健康づくりが意味すること

ーー2020年6月、神奈川から石巻に移住された松井さんですが、新型コロナウイルス感染症の流行最中でもあったことから多くの苦労や戸惑いもあったかと思います。この1年間を振り返ってみて、ご自身の中で変化したことや新たな発見などはありますか。

 

私は、代表の橋本さんが始められた住民主体の健康づくりに興味があり、そこに関わりたいという思いから石巻へ移住してきました。移住してちょうど5ヶ月が経過した昨年10月から、その事業の担当を本格的に任してもらうようになります。そこでの経験が、私を大きく成長させてくれました。

例えば、コロナ禍で思うように活動できていなかった地域住民の方々と関わる中で、安心して集える場というのをみんな心の底から求めていることがわかりました。コロナ禍のため感染は避ける必要があるものの、やはり人との繋がりは大切だったのです。

参加者の方からは、コロナ禍の影響で人と会う機会が減ったり散歩するにも人のいない場所を選んだり、刺激がないから笑う機会も減ったりしたという話を伺いました。今まで生き生きと活動していた人も、引きこもりとなって体力が低下したそうです。「お正月ぶりに笑ったよ」と喜ばれる方もいらっしゃいました。

感染症対策はしっかりと行った上で、リアルの場で人と集まって交流する機会を設けることは、住民にとってとても大切なことなのだと改めて実感しました。

 

—— “住民主体”の健康づくりは、どのように行われているのですか。

 

f:id:replus:20210730100359p:plain


現在はみやぎ生協さんと協働し、中高年の方を対象に ①測る(バランス力や脚力を測定) ②知る(測定結果をもとに鍛え方を知る) ③動く(実際にフィットネス感覚で楽しく筋力強化、脳トレ、筋トレ、ストレッチを実践する)といった内容の講座を2日間にわたり実施しています。

この講座の目的は、自身の健康だけでなく、地域のつながりや健康づくりの担い手【きらきら健幸サポーター】になってもらうことなので、サポーターとして自立できるように講座の内容を工夫しています。

10時から16時の講座を2日間受けるのでなかなかの過密スケジュールですが、こなしてみるとあっという間だったと言われる方が多いです。2日目が終わった後に認定証をお渡しし、サポーターとして認定します。

このような活動を通して感じるのは、住民の行動変容を起こすのは医療者ではなく、住民(対象者の周りの人)だということです。医療者として関わると、どうしても“教える・教えられる” という関係になります。この講座の受講者にも、普段は引きこもりだけど知り合いの方が声をかけてくれたから来た、という方もいらっしゃいました。地域の方々のネットワークに勝るものはないなと感じます。

さらに、この講座はここで終わりではなく始まりだということが魅力の一つです。講座を修了した方の中には、生協での委員会活動があるときにアイスブレイクとして習った内容を実践してみたり、近所の人が集まる集いの場でみんなで体操をしたりと、この場で得た知識を生かしてさらなる繋がりを構築しているようです。この話を聞いたときはとても嬉しかったです。

 

f:id:replus:20210730095641j:plain

——活動する中で、松井さんが大変だなと感じたことはありましたか。

 

人材育成に加え、楽しくやってもらうというのが難しかったです。というのも、ここに参加される方は、今後健康づくりを広めることも目的としているからです。この方達が今後関わる人のことも見据えながら伝える、というのはとても難しかったです。

私がこれまで理学療法士として現場で働く中で行ってきたのは、目の前に方に“教える・伝える・治療する”ことでした。しかし、ここでは “健康・地域づくりの担い手を育てる” という目的に変わります。サポーターとして続けていくためには、必要性はもちろんのこと、楽しさとかやりがいも伝えなければなりません。そういった点で、これまでとは違う責任感を感じ、最初は上手く伝えられるか悩む時期もありました。

 

——活動する中で感じた、やりがいや面白さについて教えてください。

 

いわゆる “元気な人” が増えていくのが純粋に嬉しいですね。受講者の方から「私これやってみようかしら」と前向きな発言が多く聞かれたのが嬉しかったです。また、笑いながら話している姿、どんどん声のはりが増えてきている様子、表情が明るくなるなど、アンケートではわからない反応が見ることができて嬉しかったです。こういった、一見小さな変化が実は大きなことにつながっていくと私は信じています。

身体が弱ってきた方が地域で運動をするというと、デイサービスなど専門家のいる施設でしかできないと思われているケースが多いです。私自身も、これまでは保険内のサービスしか提供したことがありませんでした。しかし、この取り組みは地域住民を育成することで保険外での提供が可能となり気軽に受けられるようになります。さらには地域の方々との繋がりのなかで育まれるので、とても素晴らしいことだと思います。

その活動を任してもらっていることに責任を感じつつも、頑張らなくちゃいけないな、とやりがいを持って向き合えています。

 

f:id:replus:20210730100015p:plain

田舎暮らしで感じた互助の仕組み

——この一年間を振り返り、新天地での暮らしや働き方といった側面で徐々に変化していったことや新たな発見があれば教えてください。

 

1年前と比べると、単純に人との出会いが増えました。地域の人や保険外の活動を通して出会った人、病院の方や生協さん、ランニング中に出会うおじさんとか。神奈川ではなかった多くの出会いがあり、会話も自然とできるようになりました。温かい人が多いなという印象で、話しかけてもらってとても嬉しかったです。地域自体に人を受け入れる文化があり、住民同士の繋がりも濃いというのも、養成講座がうまく進んでいる秘訣かもしれません。

私自身の暮らしについては、神奈川の都会から田舎に来たので、最初は感覚の違いなどで戸惑うこともありました。特に、移動といった点では全く違って、こちらは車がないと生活できないのがショッキングでした。駅まで歩く、という感覚はなくなりましたね。

 こちらの人が車という移動手段をなくした時に、生きていけないというのがよく分かりました。だから、皆さんギリギリまで運転する方が多いですよね。しかし、高齢の方の寿命も伸びていく中で、今後その人達の移動手段はどうなるのだろうかと気になります。おそらく家族と住んでいる人は家族に、一人暮らしの方は近所と交流しながら助け合って生きているのかなとは思いますが、こういったところからも田舎の方がより人(家族や住民)同士の繋がりが強くなる由縁を感じました。都会は個で生きていける環境、自立できるハードがあるので。このように、環境によりその土地の文化ができていくことを学びました。

 

多職種だからこそ見える新たな視点

——りぷらすでの働き方や環境を通して、変化したことがあれば教えてください。

1週間のうち、登米と石巻の2カ所で仕事をしているのですが、同じ宮城でも地域の違いを感じることができて面白いです。同じデイサービスでも、地域で利用する方々の特徴が違ってくるんですよね。

また、多職種の方と働いているので様々な視点を知ることができ学びになっています。今までは病院の中でリハビリスタッフとしか関わらなかったのですが、りぷらすでは介護職や今まで介護経験がなかった人との交流があります。専門職には見えない視点をもらえることで非常に刺激になっています。例えば、「〇〇さんズボンを逆に履いてるんだけど、この間もなかった?」という会話や、「送迎で家にいったときに〜〜っていっていたよ」など、暮らしの中にある情報を沢山くださいます。私自身も、そのような情報を大事にピックアップするようになりました。なので、視点や考え方はこの一年でだいぶ変わったと思います。

私はこれまで、専門職として“生活をみる”といってきましたが、りぷらすで働くまでは、実はどうやって良いのか詳しくは分かっていませんでした。しかし、りぷらすで働くスタッフの方々の関わり方やコミュニティへの入り方を見て、こんなふうにすれば上手くいくんだ、と視野がとても広がりました。

神奈川から移住してすぐの時は、言葉の使い方、頼み方、選び方、ニュアンスの違いに悩まされました。「言葉が丁寧すぎる」って言われることもあって(笑)田舎と都会の距離感の違いにはまだまだ悩みますし勉強中ですが、これからも日々成長と思い様々なことに前向きに取り組んでいきたいと思っています。

 

f:id:replus:20210730100130p:plain

以上、本日は昨年6月から一般社団法人りぷらすで働かれている理学療法士の松井遥さんにお話を伺いました。松井さんの今後のさらなるご活躍を心より楽しみにしています。


【取材・文・撮影=河村由実子】